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画・甲斐大策

〈現在美術〉批評Ⅰ 

南九州という磁場 Alternative Art Review 1996-2024
石川千佳子
本体:3000円+税 *A5判並製/372ページ

「わたしにとって美術館は、幼いときから魂の解放区だった」――。
南国・宮崎の地で、瑛九をはじめとした郷土出身画家の知られざる真価を世に問いつつ、
四半世紀以上にわたり各地のアートシーンの“現在地”を追い続けてきた気鋭の美術評論家のテクストを集成。
第1巻では、美術理論・美術史の教鞭を執るかたわら、平成〜令和にかけて開催された南九州の美術展を丹念に訪ね歩いた展評や折々のコラムを中心に構成。
激変する時代の潮流に漂う地方アートシーンの汀(みぎわ)にきらめく新たな表現=現在美術を探し続けた旅の軌跡。

石川千佳子(いしかわ・ちかこ)…仙台市出身。宮崎大学名誉教授。放送大学特任教授。東京藝術大学美術研究科修士課程修了。在学中に安宅賞。宮崎大学教育学部で美術理論・美術史を担当する傍ら、美術評論家として批評活動に携わる。AICA(国際美術評論家連盟)会員。

◎あとがきより
――新聞記事は一日だけのものであり、あとは忘れ去られてかまわない――これは、宮崎日日新聞の美術月評「アートこらむ」の企画者だった故・山口俊郎氏の言葉である。一日限りの記事の輝きに精魂を傾ける新聞記者の矜持であっただろう。  新聞紙上の美術批評も、やはり掲載日限りのものだと思いながら、今日まで書き継いできた。(中略)  二十九年前に、たまさかの寄稿ではなく、負担の大きい月評の連載をお引き受けした理由は、山口氏の「宮崎に批評の空間を創りたい」という熱い志に共感したからだった。おそらく、同時期に音楽や文芸、演劇の月評を引き受けられた方々も、同じ思いだったのではないだろうか。  月評を執筆中には、週に三つ程度の展覧会に足を運んでいたので、年間でざっと百五十ぐらいは観ていたことになる。気になる展覧会があれば、宮崎県内ばかりでなく、隣県や福岡、東京にまで足を延ばした。出張先の東京に、本県出身作家による個展についての電話が掛かってきたこともある。(中略)  宮崎を中心とした地域の美術活動に向けた視線は、すでに権威づけられたものよりも、それまで取り上げられることの少なかった挑戦的な作品、つまり私が「現在美術」と呼んできたものに向かったため、地方・現代美術史としては片手落ちかもしれない。  しかし、その視線に拠ることで、瑛九と共に活動した故・加藤正をはじめ、故・日岡兼三や玉田一陽、長友裕子、又木啓子、光野浩一、伊藤五惠、藤野ア子等の無所属の現代美術家の活動に触れることができ、また全国的な公募団体の傘下にある宮崎支部の独自の動きや、所属作家の表現の多様性についても知ることができた。(中略)  こうした経緯で、「掲載日限りのもの」と言っておきながら出版する運びとなったが、もし拙著が宮崎を中心とした地域の美術活動の一隅を照らす、ドキュメントの役割を果たせるならば望外の喜びである。

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