〈遊廓のストライキ〉が
起きたとされる伝説の町で、
遠ざかる記憶に耳を傾ける――。
明治から戦後にかけ、軍都・熊本の隆盛とともに栄えた二本木遊廓。
そこには、広大な庭園と大小の楼閣を有した巨大妓楼「東雲楼」が君臨した。
待遇の過酷さに娼妓らの逃亡が頻発し、ついに日本初のストライキが起きたとされる伝説の地を訪ね、
古老たちの証言や資史料を渉猟しながら綴った渾身の作!
【まえがきより】
「二本木遊廓が全国に知られるきっかけとなったのが、明治三三年(一九〇〇)に起きたとされる『東雲のストライキ』である。二本木遊廓でもっとも豪華な東雲楼の娼妓約五〇人が、待遇改善や自由廃業を求めて接客を放棄し、立て籠ったと伝えられる事件である。彼女たちが歌った『東雲節』は全国に広がり、小学生まで口ずさんだと言われている。…二本木遊廓も他の遊廓同様、負の側面を持っている。私は、かつて栄華を誇った西日本随一の二本木遊廓を通して日本近代の光と影を掘り下げ、その歴史を正しく、ありのまま未来に伝えていくことは一つの責務であり、このままでは二本木遊廓の歴史そのものが忘れ去られてしまうと危機感を抱いた」(序章より)
【目次】
序章 近代の光と影
西日本屈指の遊廓街/芸も教養もあった遊女/一流遊廓は茶屋(料亭)とセット/遊廓にはどんな人がいたか/近代以降は「貸座敷」として許可/二本木ゆかりの名捕手/老舗の写真館に残されていた古写真/近代の光と影
第一章 二本木遊廓の誕生
二本木遊廓前史/肥後の国府として栄える/ダンスホールもあった/遊廓を中心とした「共同体」/遊廓の盛衰―戦争と不況/五高の学生も放蕩/明治の娼妓のブロマイド/貧しい農家などの娘を売買/女衒/増えていく借金/不治の病―梅毒の検査代も自腹/二本木遊廓俯瞰/東西の券番がしのぎを削る/限られた橋で出入り/資財を投じて架橋/地元・二本木に貢献した楼主たち/芸能人を多数輩出/カントリー音楽界の大御所と二本木/優しかった侠客
第二章 東雲楼とその時代
「東雲将軍」中島茂七/贅を尽くした構造/大枚をはたいて各地からスカウト/茶屋と妓楼がセット/米相場で成り上がった豪傑/地元への貢献/軍隊と遊廓/兵隊とのトラブルが多発/ロシア兵捕虜が登楼/平成まで残っていた「日本亭」/文化財としての価値
第三章 女たちの抵抗
娼妓たちのストライキ/「東雲節」の発祥は諸説紛々/自由廃業運動がストライキ伝説に?/東雲楼の園丁の証言/ストライキの謎と白川大水害/続発した脱走/娼妓取締規則の公布/堰を切った自由廃業―前借金は消えず/宣教師や女性識者の廃娼運動/同情とは名ばかりの侮蔑も/異議を唱えた新時代の論客/遊廓と娼妓の攻防/実家まで脅迫/捕まった娼妓たち/休業に追い込まれる店も/中島茂七の失墜/茂八の孫が記した東雲楼の思い出/廃墟となった東雲楼/中島茂七の子孫の思い
第四章 戦いの世紀
一本榎事件/娼妓の生活状況/娼妓が妊娠したとき/引き取った娼妓の子と一緒に育った/崇敬を集めた「檜垣さん」/二本木病院の落成/第一次大戦後の恐慌と二本木/ついに「ストライキ」が起きた/不況下に続いた身売り/新興熊本大博覧会―突如の中止命令/東雲庭園、第二会場として健闘/戦時体制で灯りも消える/二本木にも空襲/東雲楼庭園に特攻機が墜落/「敵艦に体当たりして死ぬより……」
第五章 廓の生と死
「恋心」を商った/楼主と女将が取っ組み合い/美しかった彫り物/娼妓の墓/無理心中もあった/天涯孤独の娼妓の自殺/ある老女が語った二本木/「おどか」娘もおったけど/売れる娘ほど梅毒に罹った/大阪まで逃げた娘もいた
第六章 遊廓という遺産
占領から売春防止法へ/終焉期の二本木を訪れた文豪/二本木遊廓の最後/遊廓絵師・古場田博/デジタル時代への違和感/四年をかけ調査・取材/濃密な筆致で二本木を活写/八二mの大作「二本木廓絵巻物」/日本亭の解体に立ち会う/「遊廓」を伝える難しさ/負の歴史も隠さず伝える/「二本木に生まれて良かった」
【著者】




